top-down  skating  note     version  1.0



                                                        shirasagi  tonda



                                                      2006 年7 月10 日



1       はじめに


      私は、どのように体を動かして滑ったらいいのか、に関して最適な解を分かっていません。

      自分が分かっていないので、人に教えることはできません。

      しかし、インラインスケートを履いて練習していたら、運よく、少しだけ滑れるようになり

ました。

      ここでは、こんな私が、どうやってスケートをしたらいいのか、について、本質的だと考え

てきたことを順番にまとめました。



1.1         タイトルについて


      top-down という意味は、上意下達という意味ですが、「私が誰かに教える」という意味では

なく、「本質的」なこと(top) から順番に話をすすめる、と言う意味で使用しています。

      また、note という単語にしたのは、これが「講義」、「教本」、「指導書」ではなく、私が

今まで考えてきた事をメモ書きのようにノートにまとめた程度の、「未完成」なものだからです。



1.2         私のスケートの履歴書


      34 歳まで、スポーツには無縁の生活を送ってきました。

      慢性的な運動不足と体力低下に気づき、何か運動を始めようかと思っていたところ、偶然見

ていたNHK のテレビアニメ「カードキャプター さくら」の中で、主人公の女の子が、街中を

カッコよく滑るシーンを見掛け、初めてインラインスケートを知りました。

      そして、菅野美保さんが出ているスケート本を購入し、フィットネス用インラインスケート

を購入し、家の近くでちょこちょこ滑っていました。

      1 年程で、インラインスピードスケートのチームの方と知合いになり、インラインスピード

スケートを軽い気持で始めました。

      それから2 年位は、お遊び気分でやっていたのですが、ある時、どうしても速くなりたい、

と思うようになり、その時から、どうやったら速く滑れるのか、を、いつも考えながら、ずっと

インラインスケートをしてきました。(事情があり2006 年10 月をもって、スケートをやめまし

た)

      ここでは、止めるまでの5 年間に私が考えてきたことを、私のなりの順番で書き留めました。



1.3         アイススケートについて


      私はアイススケートはできません。

      数回程やってみましたが、エッジで氷を上手に捉える事ができませんでした。



      そのレベルでいいますと、トップ選手の言葉通り、筋肉の繊維一本一本に神経を使い、エッ
ジで氷を確実に捉えられないと、最高の速さは得られないと思います。


      一方、インラインスケートでは、ラフな押し方でも普通に滑れます。

      つまり、アイススケートをすることにより、繊細な筋肉の使い方を覚える事ができるように

なり、インラインスケートでの更なる向上が期待できると思います。

      この話とは逆に、近年、インラインスケートのトップ選手がアイススケート界でも活躍して

いますが、これは、短い歴史ではありますが、タイヤが回転しているインラインスケートで「長

距離レース」を滑走する為に、全身のあらゆる筋肉を効率的に使うようになっていたことと、そ

れに伴い、独特な重心の移動による滑走が可能になっていたこと、が活躍の主要因だと、私は考

えています。(エネルギー保存の法則を使用。mv^2/2 = mgh)

      ここでは、「インラインスケートしかできない私」が、どのようにスケートを滑ったらいい

のか、について、まとめています。



2       スケートの滑り方



2.1         状況に応じて最適な力積を稼げばいい


      結論から先に言いますと、状況に応じて最適な力積を稼ぐことができれば最速で滑走するこ

とが可能です。

      これが分かっていれば、どのように練習すればいいのかは明白であり、あとは努力すればい

いだけです。

      しかし、最適な力積を稼ぐこと自体が非常に難しく、だからこそ、あらゆるスケーターが日々、

努力をされている訳です。

      自分がどこまでのレベルに達したいのか、自分がどれだけの時間をスケートに割けるのか、

を決めて、最適な力積を稼げるようになる為の練習をすることになります。



3       基礎的な事柄



3.1         必要な法則


      必要な知識は、以下の、たった4 つです。



      (1) ニュートンの運動の法則


             -   第1 法則:  慣性の法則


             -   第2 法則:  力、質量、加速度の法則



                                                                       F  = ma    (1)
             -   第3 法則:  作用、反作用の法則


      (2) 運動量の変化は力積に等しい

                                                              mv' - mv = F t      (2)



         これを変形しておくと

                                                              mv' = mv + F t      (3)



      尚、F, a, v, v' は、大きさと方向を持ったベクトルです。



3.2         体を前に進めるには


      歩く時、足で地面を押して前に進みますが、地面を「後ろに」押した力の反作用として、体

に「前向きに」力が加わり、体が前に進みます。(ニュートンの運動の第3 法則)

      加わった力の大きさにより、体は前に加速し、速度が上がります。(ニュートンの運動の第2

法則)

      そして、同じように地面を押し続ければ、どんどん加速し、無限のスピードが出るはずです。

      が、実際には空気抵抗があり、どんなに頑張って走っても、速度は飽和状態になります。(難

しいのでここでは触れません)

      これを飽和速度v とします。



3.3         スケートを履くと


      スケートを履いたまま、前節 3.2  のように、後ろに押して走ると、スケートの重さなどを無

視して、仮にうまく走れたとしても、その速度は飽和速度v までになります。

      ここで、押すのを止めると、スケートの特性から、ニュートンの運動の第1 法則に従って、

飽和速度v のまま進みます。(実際は各種抵抗により減速し、停止します)



3.4         横に押す


      向きを考慮する為に、長方形を思い浮かべてください。進行方向を縦線、真横に押した反作

用で生じる力積の方向を横線とします。

      飽和速度v で滑走している状態(縦線) で真横に押した結果の力積Ft(横線) を加えると、式3

から、運動量mv が運動量mv' に変化し、その方向は、長方形の対角線方向になります。

      速度v' は長方形の対角線なので、速度v' の大きさは速度v の大きさより大きくなります。

      つまり、後ろに押していただけでは飽和速度v までしか出せなかったのに、横に押す事で、

更に大きい速度v' を得る事ができます。



3.5         横に押す角度について


      真横に押すとは、mv とFt の成す角度が90 度のことをいいます。

      純粋にmv とFt のベクトルの合成を考えれば、角度0 度がいいのですが、それは即ち、「更

に」後ろに押すことを意味し、既に飽和速度v に達している現状でそれを実行する事は不可能で

す。

      では、mv とFt の成す角度が角度90 度を越える場合はどうでしょうか。

      これはFt が進行方向より後ろ向きになることを意味し、前に押していることになります。つ

まりブレーキを掛けることなります。

      以上より、力積Ft の方向は物体の移動方向に対して正確に90 度である必要があります。



3.6         斜めに進んでいる


      加速後の速度v' は長方形の対角線、つまり本来の進行方向に対して、斜めに進んでいること

になりますので、スケートのブレードの方向を変えて、本来の直進の向きに戻します。

      この状態では、路面との抵抗を利用して曲がるので、エネルギーを失うことになり、それは

速度低下を意味します。

      真横に押して速度v より大きな速度v' を得たにも関わらず、方向転換で減速しては何の意味

もありません。




      つまり、「如何に減速せずに方向転換できるか」がとても大切なことになります。



3.7         カーブを曲がる


      理想的な等速円運動であれば、円の中心に向けて力が働き続ければよく、接線方向(進行方

向) に対して常に真横に押し続ければいいことになります。

      実際には、左右の足を交互にクロスさせながら押す事になるので、ここで、どれだけ真横に

押し続けられるか、が大切なことになります。



4       最速で滑走する為には



4.1         スタートから最速まで


      初速0 の状態で真横に押しても進みませんので、最初は後ろに押す必要があります。

      加速し、最高速度に達した状況では真横に押しています。

      つまり、後ろ押しから始まって、徐々に横押しに移行する、この、後ろ押しから横押しへの

移行手順を最適にすれば、最短で最高速度を得られることになります。



4.2         6-9 最適解


      ここで、押す方向を時計の針に例えると、6 時の方向が後ろ押し、9 時の方向が横押しに相

当します。

      スタートから最高速度までの時間を最短にするには、時計の針を6 時から9 時まで、どのよ

うな時間配分で移動させればよいのか、についての解を求めればいいことになります。これを

「6-9 最適解」(ロクキュウサイテキカイ) とします。

      この「6-9 最適解」を求め、その通りに滑ることが、すなわち、「状況に応じて最適な力積を

稼ぐ」ことになります。

      「6-9 最適解」を計算機でシミュレーションしたりして求めることは可能です。

      が、様々な前提条件によって得られた解なので、その前提が崩れれば、最適解ではなくなり、

最短で最高速度へ達することは不可能になります。

      あくまで、参考にしかなりません。



4.2.1        インラインスケートのスタート


      インラインスケートでは、陸上の100m 走のような体勢で後ろへ押しながら直進、加速し、

徐々に(姿勢を低くしながら) 横押しに移行することが多いです。

      たぶん、時間軸を変えた視点から見れば、アイススケートと似ているのかもしれませんが、

絶対速度が遅い分、長い時間、後ろ押しで走っているように見えるのだと思われます。



4.2.2        アイススケートのスタート


      後ろ押し期間がインラインスケートより短いとは思いますが、最初は後ろ押しです。

      しかし、最初から7 時、8 時方向へ押し出しているように見える場合があります。

      アイススケートでは、コーナリングに横押し用の大きな筋力が必要な為、これを有効に活用

する為に、体を斜めに向けて、思いっきり横押し筋肉を使ってスタートしていると思われます。




4.3         6-9 最適解は多数ある


      前節4.2.1 , 4.2.2 から分かるのは、自分がどのような筋肉を持っているのか、によって、「6-

9 最適解」は違ってくるということです。

      陸上短距離が得意な人がインラインスケートを始めたのなら、後ろ押しが強力なので、それ

を利用して、例えば、6 時から7 時までに時間を掛けて加速し、速度が上昇してきたら、7 時か

ら9 時までを使う、などが最適解になります。

      また、アイススケートだけをやってきた人は、コーナリング用の強力な横押し筋肉があるの

で、それを利用して、最初から体を斜めに向けて、7 時から押すことで、横押し用の筋肉を初期

加速の為の後ろ押しに使うことが最適解になります。

      ここから言えるのは、次の2 つのアプローチがある、ということです。



      (1) 加速をこうしたいから筋肉をこう付ける


      (2) 付いている筋肉がこうだから加速はこうする



      鶏と卵の関係と同じですが、日々の練習の中で、「6-9 最適解」を求める必要がありそうで

す。



4.4         6-9 最適解への道


      例え「6-9 最適解」を知ったとして、人間か計算結果通りの時間配分で押すことは困難だと思

われます。

      しかし、その理想に近付く為に絶え間ない努力をすることで、「最速」を得られると思いま

す。日々、考え、タイムを記録しながら、練習し続けることです。



5       あなたは自分の重心の位置が分かっていますか?


      あと一つだけ、とても大切な事があります。それは「重心」です。



5.1         質点の力学


      ここまでは、質点についての理想的な力の入れ方についてお話ししました。

      空間の中の「点」で、大きさはないのに質量はある、物理の話を進めやすいモデルです。

      例えれば、米粒のような点に着目して、後ろ押し、真横に押すとどうなるのか、についてお

話ししたようなものです。

      空気抵抗、路面の抵抗、タイヤの特性など、かなりの制約事項を無視しています。

      それは、「本質的」なことをお伝えする為でした。



5.2         重心について


      実際のスケートでは、質点ではなく、人間の体について、どんな力を掛ければいいのか考え

る必要があります。

      人間の体の各部分の質量にどういう力を掛ければいいのか、という考え方もありますが、こ

れは話が非常に複雑になります。

      そこで登場するのが、「重心」です。

      重心は、物体の各部分に働く重力の合力が作用すると考えられる点です。質量中心です。

      この重心について、今までお話しした力の掛け方を使えばいいことになります。




5.3         重心の位置は変わる


      例えば、まっすぐな姿勢で寝ている人間の体を割箸に見立てて考えて見ます。

      割箸の頭と足に同じ粘土を付けて指の上でバランスを取ると、割箸の中心に指があります。

ちょうどおへそのあたりでしょうか。この指の位置が重心になります。

      次に、頭の粘土を今の重心の方へ移動します。たとえば胸のあたりです。この状態でバラン

スを取ると、指の位置は足もとの方へ移動します。太モモのあたりでしょうか。

      粘土の位置が変わると重心の位置も変化したことが分かります。

      つまり、人間の体が形を変えることで、その重心の位置が変わることがお分かり頂けたと思

います。



5.4         人体の重心の位置


      前節5.3 で、体を動かすと重心の位置が変わる事をお話ししました。

      スケート中に、腕、足、胴体、頭などが動きますので、絶えず重心の位置は変化しています。

      ある状態での重心の位置は、例えば、大型のCT スキャンで体全体をスキャンして、質量と

仮想原点からの距離を算出し、正確な重心の位置を求めることは可能です。

      このようにして得た重心の位置に対して、理想的な力積を掛ければ最高の結果が得られます。



6       まとめ



6.1         現状


      現状、トップ選手がここまでやっているのか、については、素人の私には分かりません。

      しかし、自分の重心の位置を分かって体を動かしているとは思えません。それは前節 5.4  で

お話しした通り、重心の位置を計算することが大変だからです。

      そして、スケート中に動的に変化する重心の位置に対して、計算で得られた最適な押しがで

きるほど人間は高精度な生物ではありません。



6.2         やるべきこと


      ここまでの話で、勘のいい人はもうお分かりだと思います。

あるべき姿を思いつつ、ひたすら練習するしかないのです。

速く滑る為には、最良の状態で、滑走練習し、タイム計測し、タイムが短くなるよう、何度も

何度も努力する必要があります。

      その努力の中から、心技体が高められ、更に速くなる、と、私は考えます。



6.3         最後に


      ここまでお話しした事が、私が「本質的」だと考えることです。

      この本質を踏まえて、

どのように滑りたいか、

どのように体を動かせばいいのか、

どのように筋肉を付ければいいのか、

どのように心肺機能をアップすればいいのか、

を考えながら、練習方法を検討していけばいいと思います。




7       補足


      具体的な練習方法などは、スケートの専門の方々に学んで下さい。私自身は遅いので、何の

アドバイスもできません。

      今までお話ししたことを理解していれば、たいていの練習方法は、その練習の理由について

納得できると思います。



7.1         普段の練習に関して


      現実の滑走場面では、路面状況、タイヤ、ベアリング、空気抵抗など、様々な要素が絡んで

きます。

      その中で、最速を目指すには、常に、試合と全く同じ状況で繰り返し練習することが必要で

す。

      最適解が理解できていないのであれば、試合と全く同じ状況で繰り返し練習し、最適解に

近付く努力が必要になるからです。

      つまり、お金に制約が無い理想的な状況では、普段の練習でも、服装は試合用、タイヤ、ベ

アリングも試合と同じ、体調も試合と同じようにしておく必要があります。

      体力作りの為に、手入れしてないベアリングで、普通のT シャツをひらひらさせながら練習

しても構わないと思いますが、それなりの頻度で、試合と同じ状況で練習し、最適解を探す練習

が必要です。



7.2         ホームリンクは有利


      リンクの路面状況、リンクの風向きなども最適解を求める為の必須要素になります。

      つまり、普段そのリンクでひたすら練習している、ということは、そのリンクでの最適解に

近付いていることになります。ですから、「ホームリンク」では有利になると考えられます。

      しかし、有利な状況で得られた最速の結果よりも、他のリンクで練習し、より体力と技術の

ある人に抜かれる可能性はあります。

      リンクと言っていますが、渡良瀬や長良川などのロードでも、同様の事が言えます。



7.3         道具の手入れ


      最適解が理解できていないのであれば、なるべく多くの要素を最適状況にしておく必要が

あります。

      ですから、アイススケートなら、常に刃を研いでおく、インラインスケートなら、常にタイ

ヤとベアリングも手入れしておくことが必要です。(体力作りが目的であれば、手入れは不要で

す。)



7.4         最後は気合いの問題


      これは余計なことかもしれませんが、「最後は気合いの問題」だと、私は思っています。

「速くなりたい気持」が大切です。




ps. インラインスケートでは、300m競技以外は複数の競技者が同時に競技する コンタクトスポーツになるので、 スケーティング以外の部分で、様々な能力が要求されます。  先頭引きや後退の時期、割り込み、駆け引きがたくさんあります。
 アイススケートのショートトラックに似ているのでしょうか。


(2007/12/8) dvi2ttyの出力をちょっと加工しただけなので、見づらくてすみません

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